心の中にある輝きを
うまく外にあらわせずに
もどかしくなること、ありますか?
アミルは村の中央にある井戸に水を汲みに行くところだった。
両手に膝丈ほどもある大きな木製の桶を持ち、軽やかな足取りで井戸までの道のりを歩く。
家から目的地までは軽く数分。小さな村なので井戸が一つしかなくとも充分に対応できていた。
腰ほどまで伸びたつややかな髪の毛が風に揺れて踊る。色は黒色なのだが、わずかに濃い緑も混じっていた。
ベージュのロングスカートのワンピース、こげ茶色のブーツは、長年使いこんでいるのかかなり
くたびれているようだった。
あちこちに修繕の跡が見られ、大切にしているのだということが覗える。
太陽の光であたたまったそよ風はなめらかで、とても心地よく感じる。
長いストレートの髪の毛が翻弄され、顔をなでくすぐったい。
両手をたびたび下ろし、サイドの髪の毛を耳にしっかりかけて、再び桶を持ち道を急ぐ。
それでもまた風はいい遊び相手だとばかりにいたずらを続ける。そんな風とのひそかな攻防を繰り広げながら、目的地の井戸まで辿り着いたのだった。
井戸での水汲みはアミルの仕事だ。なので頭で考えるよりも先に手が動く。
持ってきた桶をかたわらに置き、井戸に取りつけられている水汲み用の桶を手に取り井戸の中に入れる。
重力に逆らうことなく桶は下に下に落ち、ぽちゃっと水に落ちた音がする。
井戸用の桶にはロープが張られており、それを中の水がこぼれないように注意しながらそっと引き上げる。
引き上げた桶に入っている水を持ってきた桶の中に入れる。
以下、それの繰り返し。持ってきた二つの桶がそれぞれ八分目になるくらいまで続いた。
アミルが満足するくらい桶に水がたまるまでそう時間はかからない。慣れたもので手つきもよく、それこそあっという間だった。
「よいしょっと」
最後の水を入れ、井戸備え付けの桶を指定の場所に置く。腕でほんの少し額ににじんできた汗をぬぐった。
「今日は珍しくあったかいなぁ」
もう冬の始め頃だというのに天気がいいせいかあたたかい。
アミルは寒さに弱いのでこのくらいの状態がずっと続けばいいのにと思う。
「さてと、帰ろっかな。ばあちゃんが待ってる」
アミルは幼少の頃早くに両親を亡くし、唯一の肉親である祖母と二人暮らしだった。
両親の顔は全く憶えていない。
いるはずの存在がいないということで寂しい思いもしてきてはいたが、祖母からの愛情を一身に受け、元気に今まで十年間育てられてきた。
「よいしょっと」
慣れているとはいえ、両手に二つの水入り桶を持つのは、身長135センチを越えたばかりの小さなアミルにとって負担が大きい。
行きとは違い、多少足取りがゆっくりとなる。
水をこぼさないように気をつけ、辺りに気を配りつつ注意深く歩く。それでも普段は休憩せずに一気に家まで持ち運ぶことができるのだが。
「……あれ?」
ふと何かの気配を捉え立ち止まる。
両手の桶を地面に下ろし、辺りをきょろきょろと見まわしてみる。
「……何もないよなぁ……」
誰かに見られているというような感覚があったのだが、辺りを見ても誰もいなかった。
今はもうすぐ昼時といった時間で、村のみんなは食事を摂っているのだろう。
そもそも人口が少ないのだ。道を歩いていても往来する人は少なく、天気のいい日でも道端で人と会うということはあまりなかった。
「こんな時間に歩ってる人なんていないよね」
地面に置いた桶を再び持とうとかがんで取っ手をつかんだ時、
「……あっ」
いつも見慣れている村一番大きな村長の家。
そこの塀のすみっこに白くて丸い小さな影がぽつんとあった。
かがんだまま目を凝らしてよく見ると、それは人間の小さな女の子のように感じる。
遠くなためはっきりとは確認できないが、身体の大きさから年齢はアミルに近いかもしれない。
髪の毛と服が風に揺られて多少上下に動いている。
桶を持って立ち上がり、少女の方へと近づいていく。
村にはアミルと同じような年齢の少女はいなかった。
みんな年上か、まだ年端もいかないほどの幼児、乳児ばかりで、いつも遊ぶ相手を探すのに苦労しているのだった。
とすると、あそこにいる少女はどこかからやってきた子だということになる。再度見てみるが、やはり知った顔ではない。
少女に近づくにつれ徐々にはっきりとしてくる。
ブロンドの髪の毛はアミルよりは短いが肩甲骨ほどまで伸びていた。手入れがなかなかできていないのかつやはあまりない。
白い……というよりは埃にまみれて薄茶色くなっている服に身を包み、小さく縮こまって座っている。
そして、地面をじっと眺めていた。
「こんにちは。私、アミルっていうの」
桶を地面に置いて、少女を見つつ声をかける。
近づいてきているのに気づいていなかったのか、びくりと身体が大きく揺れ動いたのがよくわかった。
「あっ、ごめんね。びっくりさせちゃったね」
なるべく優しい声音でいようと努めながら、話を続ける。
「もしかして、さっき私の方、見てた?」
少女はいまだ顔を上げずに地面を見つめたままだ。
ただ先程と違う点は……。身体が小刻みにふるえていることだった。
「寒い……わけないよね……。今日はいつもよりかなりあったかい日だし」
考えられる可能性は、一つしか考えられなかった。
たった一人で塀のすみに縮こまっているくらいなのだから、普通の生活を送ることのできる環境ではないのだろう。
見たところ周りには誰もいないし、家族もいないのかもしれない。
アミルには、少女が今までどのように生きてきたかなどわかるはずもなかった。
ただ、何事かあって今こうして座っていて、その何かのために、今アミルと話してふるえてしまっているのだろうとは判断できた。
「もしかして、私のこと、怖いって思ってたりする?」
考えた内容を一番簡潔な形で問いかけてみる。
想像通り、少女は顔を全く上げようともしない。
うーんと首を傾げ少し考えてから、アミルは地面に膝をつき、少女に目線を合わせた。
そして先程よりも更に話し方に気をつけてみる。
「怖がらなくても大丈夫。私はなんにもしたりしないよ。ただ、こんな所でどうしてるのかなって思っただけなの。……せめて、顔だけでも見せてくれないかなぁ?」
辛抱強く待ってみる。
人と話をするのすら苦痛になっている様子のこの子は、以前にどれほどのことがあったのだろうか。
すぐに桶を持って家に戻ることはできた。
何も空腹なのに昼食時間を遅らせることもないだろう。
だが、妙にこの少女にこだわるのは、やはり同年代の友達が欲しいと強く感じているからなのだろうか。
いつも幸せの只中にいるアミルでさえも、時々暗転する思いが心の底にあるのに気づいているからだろうか。
目の前にいる少女の、なんとも言えない寂寥感が、言葉はなくとも流れ込んでくるからだろうか……。
膝立ちの体勢が苦しくなってきたので足をつけてしゃがみ、膝に肘をつけて頬杖をする。
下を向いて丸まっている少女を眺めながら、どうしたらいいかと思案する。
……きっかけは、ひょんなことで起こるものだった。
……ぐぅ……、きゅるるる。
「あ、ははははは……」
乾いた笑いをするアミル。
やはり空腹感はどうしても隠すことはできなかった。頬杖を解き、無意識に腹部に手が行く。
「おなか……すいちゃった」
照れ笑いを浮かべつつ、独り言なのか少女に話しかけているのかよくわからずに呟く。
それで張り詰めていた空気が変わってきたのか、下を向いている少女のふるえが多少穏やかになってきたような気がしてきた。
目線は下のまま、もぞもぞと少し動く。
「あなたも……おなかすいてる?」
少女がアミルを気にしつつ、辺りを覗いながらちょこっと目線を上げてみる。
すぐにまた下を向いてしまったが、ほんの一瞬、アミルと目が合った。
アミルの翠緑色の瞳と、少女の薄黄色の瞳。
互いに交錯して、そしてすぐに離れてしまったが、鮮明に頭の中に入ってきた。
「きれいな目だね。……もう一回顔上げてみてよ。大丈夫だから、私を見てみて」
少女にとって他人を目を合わすのはどのくらいぶりだったのだろう。
とりあえず目の前にいるアミルのことはわるいひとではないと思ってくれたのだと思いたい。
一瞬合った、奥の深い緑の瞳は、とても優しい笑みをたたえて少女を見つめていたのだから。
もう一度顔を上げてみる。
今度はアミルの顔をじっと見つめてみた。
少女は自覚をしていないようだけれど、先程までの身体のふるえは不思議と感じることはなかった。自然に目線を合わすことができている。
「ありがとうね。あなたもおなかすいてるよね? 村長さんの家からとってもいいにおいするもんね。我慢してたんでしょ? 私と一緒に食べない?」
アミルは立ち上がり、右手を少女に差し出す。
少女は差し出された手をおずおずと取りながら、ゆっくり立ち上がる。少しふらつきながらも、塀に寄りかかって。
「大丈夫? ごめんね。これがあるから手つないで歩けないんだ」
両脇に置いてある桶を交互に見る。
ゆっくりと少女から手を離し、桶の取っ手を手に取り持ち上げる。
「私の家、ここから近いんだ。……ついてきてね」
そしてアミルの家へ向かって歩き出す。
続いてそろそろと歩き始めた少女の歩調に合わせながら、一歩一歩を踏みしめる。
座っていた時には気づかなかったが、少女の首からは、瞳と同じ色をした小さな石のペンダントが下がっていた。
「ばあちゃん、ただいま〜。遅くなっちゃってごめんねー」
村の細い街道に寄り添うようにして立ち並んでいる家々。そのうちのこぢんまりした一軒に入り、アミルは家の同居人に話しかける。
唯一の肉親は、玄関に入ってすぐのキッチン兼居間のテーブルに座って編み物をしていた。
アミルより少し大きい程度の体つきの、初老の女性。髪の毛は同じく黒色だが、その半分は白も混じっていた。
長さは短く、薄水色のエプロンとおそろいの三角巾で覆われている。
孫の姿を確認すると、立ち上がり近づいてきた。
「ずいぶん遅かったねぇ。いつもならもっと早いのに、心配してたんだよ。何かあったのかい? ……あら」
入り口のドアの後ろに隠れるように立っている少女に気づく。
少女は目線を下に落としながら、恐る恐るアミル以外の人間の顔を見ている。
「お客さんだね。いらっしゃい。さぁさぁ、まず中に入っておくれ」
アミルは両手の桶をキッチンのすみにある大きな水瓶の中に流し入れていた。水瓶の傍らに桶を置き、二人のそばへ行く。
ちょうど祖母が少女の手を取って室内に招き入れているところだった。
「この人はね、私のばあちゃん。名前は、リベルっていうんだよ」
家の扉を閉めながら、少女に祖母を紹介する。
少女は目線をきょろきょろさせて家の中の様子を興味深く眺めていた。ひととおり落ち着いたあとリベルの顔を眺める。
アミルと同じような雰囲気を漂わせている様子は、見ていて安心できた。
「はじめまして。よく来てくれたね。この村にはこのくらいの年齢の子供が全然いなくてねぇ。アミルも寂しがっていたんだよ」
少女の頭を軽くなでながら、目を細める。そして、少女の粗末な格好に気がついた。
何やら埃っぽいし、しばらく身体も洗っていないのかもしれない。
「あらあら。こりゃずいぶん汚れてしまっているねぇ。これじゃ落ち着かないだろうし、あなたも嫌でしょう。……一緒に汗を流しておいで」
そう言って部屋のすみに置いてあるタンスからアミルの着替えとタオルを二つ取り出す。
「同じくらいの大きさだから、たぶん合うでしょう。これを持ってお行き。汗を流したら、これに着替えるんだよ」
アミルに荷物を手渡す。
一方、荷物を受け取りつつも孫の方は少々不服そうな表情を浮かべていた。空いている方の手を腹部に当てて答える。
「それよりも私、おなかすいたんだけどなー……。この子もそうみたいだし……」
確かにもう昼時とは言えない時間になってしまっていた。これから身体を流して……となると、昼食にありつけるのは当分先になりそうである。
「そう言われてみればそうだねぇ……。よく考えると私もおなかがすいていたよ。アミルが戻ってきてからお昼にしようと思っていたからねぇ」
踵を返してキッチンへと向かう。
食事の支度はもうずいぶん前から完了していた。
かまどには大きな鍋がかかっており、蓋を開けると鼻をくすぐるいいにおいがする。
少々ぬるくなってしまっているが、もともとリベルは猫舌なため、かまわず食器を三つ取り出し中身を注ぐ。
本日の昼食は野菜たっぷりのミルクスープだった。
アミルと少女もテーブルに隣同士に座って料理が来るのを待つ。空腹な二人には、このわずかな時間も待ち遠しかった。
やがてスープとスプーンが並べられる。
リベルはアミルの正面に座った。
「いただきます」
ようやく待ち望んだ食事の時である。
おなかがすくと身体に力が入らなくてふらふらしてしまうし、何より、ばあちゃんの作る料理はどれもとてもおいしいものだった。食べる速度も徐々に早くなる。
「今日もおいしいよ〜」
満足そうに微笑みながら一口一口を味わう。
毎度の食事でこんな反応が返ってくると作る方もやる気が出てくるものだ。リベルは孫のそんな様子を見ていて笑みが自然とこぼれていた。
「ね、ばあちゃんの作るごはんって、おいしいでしょう?」
少女にも問いかけてみる。
こくこく。
首を大きく上下に動かして頷く。
しかし、おなかがすいているだろうと思ったのだが少女の食べる手はかなりゆっくりで、少しずつ噛んで飲み込んでいく作業を黙々と続けていた。
「何か口に合わないものがあったかい?」
その様子に、リベルが心配になって尋ねてみる。少女は違う地域からやってきていると思われるため、味覚の違いがあったのかと思ったのだ。
ぶんぶん。
今度は首を大きく横にふる。少なくとも料理はまずくはないらしい。大きな口を開けて野菜を口に入れ、もぐもぐとしっかり噛んで飲み込む。
「それならよかったけどね」
リベルは少女の様子、そして格好、その他から何やら思い当たるふしがあるようだった。
おそらく先程のアミルと一緒で、少女の過去を想像しているのだろう。
長い長い食事が終わり、ようやく二人は身体を洗いに行くことになった。
先程の荷物を再度アミルに渡しながら、リベルはずっと知りたかったことを少女に向かって聞いてみる。
「そういえば、あなたの名前、なんて言うの?」
アミルも目を丸くしてはっとしているようだった。思わず祖母と少女を交互に見てしまう。
「そうだった。私、まだ全然聞いてなかったよ」
そもそも、今までのやり取りの中で一度も少女の声を聞いたことがなかった。
これからできればお友達になりたいし、名前くらいは聞いておきたかった。
「……」
少女は黙ったまま答えない。視線も徐々に下を向いていってしまう。
「私達には話してくれないのかなぁ?」
首を傾げつつ呟く。
少女の方は、初めて会った時と同じように、完全に家の木の床を見つめてしまっていた。
思わず悲しい表情に変わりつつあるアミル。
「声が……出ないのかもしれないねぇ」
リベルが想像したことを口に出してみた。それを聞いて孫の顔がみるみる元気を取り戻す。
そして、居間とキッチンの境目にあるはしごを上り、アミルの部屋である屋根裏へ上っていった。
すぐに下へ戻ってきて少女のそばへ向かう。その手には、スケッチブックとペンが握られていた。
ぺらぺらとページをめくり、白い部分を開く。
「はい」
スケッチブックとペンを少女に渡す。
口がきけないなら筆談で……と思った故だったが、少女はやはり下を向いたままだった。かすかに首を左右にふる。
「文字も……書けないのかなぁ。そうしたら、名前、聞けないよ……」
アミルは少女を見て、そして助けを求めるように祖母の顔を見る。リベルも何事かを考えているようだった。
しばらく、互いに沈黙の時間が流れていく。
「名前はわからないけれど、でもないというのも不便だから、私達で呼び方を決めようかね」
腕組みをしつつリベルが呟く。
アミルはどうして気づかなかったんだろうとばかりにぽんと手を叩いて大きく頷いた。
「そうだね。いつまでも『あなた』とかって呼ぶの、なんだか嫌だし。それじゃ、私、決めるね」
リベルと同様に腕組みをし、視線を少々上に泳がせながら、必死に少女の呼び名を考える。
だが、本当のものとは違う意味合いを持つものとはいえ、名前というものはそう簡単には決められるものではなかった。
沈黙のまま、また長い時間が流れる。
「うーん……。なかなか決められないもんだねー……」
視線をリベルと少女に移し…たところで、アミルはようやく少女がペンダントをしているのに気がついた。
「あっ、きれいだね〜」
ずっと考え事をしていて疲れたのか、興味を引くものが目の前に現れて心を捉えてしまったのか、この時のアミルは少女を気遣うことよりも、好奇心の方が勝ってしまった。
手を伸ばし少女の薄黄色の石がついているペンダントを手に取ろうとする。
「……!」
ばしっ……。
音が聞こえた。少女がアミルの手を叩く音だった。
思いがけない少女の反応に、アミルは叩かれてじんじんしてきた手をさすりつつ、少女の顔を見る。
「あ、ごめんね……。とっても大切なものなんだね、そのペンダント。気づかないでさわろうとしちゃって、ごめんね」
涙があふれてくる。
アミルには、そこまで思うほどに大切なものはない。
唯一の肉親である祖母は別格にいとおしいが、ものでは愛着を感じていても、少女のようにそこまで大事に思っているものはない。
そのように感じられるものがあるということに羨ましさを感じつつ、それほど大切なものをうかつに扱ってしまいそうになり、申し訳なさでいっぱいになってしまった。
それでもなんとか涙は流さずにふみとどまる。
ぶんぶん。
少女は首を左右にふる。
自分でも衝動的に取ってしまった行動に驚き、アミルと同様に叩いた手を眺めていた。
「ねぇ、ばあちゃん。あの石、なんていう名前の石かわかる?」
リベルの方を見て尋ねる。
祖母はテーブルの傍らに置いてあった黒縁眼鏡をかけ、少女のペンダントを注意深く見つめてみる。
半透明に輝く薄黄色の石。
まず色から考えつく名前を何点かに絞る。そして、遠くからでは判別しづらいが、なんとかその石の様子から鑑定しようと試みる。
「こういう色をした石は多いから、迷うけれど……。たぶん、どっちかだね。でも、インペリアルの方ではないはず。色も薄いし……透明感なども考えると……。そうだね……シトリンだね」
ようやく結論がついたらしい。
少女もこのペンダントの石の名前は知らないらしく、ペンダントを握りしめながらリベルの方をじっと見つめていた。
「この石は、シトリンっていうんだね」
アミルが最後に祖母に確認をする。
「近くでよく見ることができないから多少不安はあるけれど……。間違いはないと思うよ」
少女を見て微笑みながら、リベルが答える。この時点で孫が少女にどんな名前をつけるのか、容易に想像がついていた。
「そっか……。じゃあね、あなたの本当の名前がわかるまで、私達はあなたのことを『シトリン』って呼ぶからね」
少女に微笑みかける。
本当に予想通りの名前をつけたため、リベルは思わず笑い出しそうになってしまったが、それを必死にこらえつつ、シトリンという名前はけっこう可愛いかもしれないと満足していた。
こくこく。
少女もこの名前が気に入ったのか、必死に頷く。
そして、初めて会った時から無表情で変化のなかった顔が、少し微笑んで見えたような気がしていた。