その先の笑顔のために


魔法は何も、魔法使いだけのものじゃないんだよ


−プロローグ−


「ふぅ……」
 今日の授業が全て終わりあとはショートホームルームを待つばかりとなった休憩時間に、相内真依(あいうちまい)は1冊の本を読んでいた。学校の図書室で昨日の昼休みに借りた比較的薄い児童書。休み時間ごとに少しずつ読み進めていって、ちょうどたった今読み終わったところだった。
 目線を本から上げてみると、授業が終わってすっかり安心しきったクラスメイトたちがそれぞれあちらこちらで話をしているのが見える。天気が良く太陽の光が窓を通じて入ってきており、教室中を照らしていた。今までずっと近くを見ていたためか、その光がとてもまぶしく感じてしまう。今は教室内に電気がつけられているが、それが必要ないと思えるくらい。
 持っていた本をバッグの中に入れ、両手を上げて軽く伸びをする。あと少しでホームルーム開始のチャイムが鳴りそうな時間になっていた。
「なーにため息ついてんだか」
 伸びをしていた両手を机の上に乗せた時、真依の背部から声が聞こえた。椅子はそのままで身体だけ軽く横に向けると、真依の2つ後ろの席で親友である木村未来(きむらみき)が頬杖をついて真依の方を眺めているのが見えた。
 あごより少し長めに切り揃えられたおかっぱ黒髪はさらさらで、窓から入ってくる光によってそれが更に強調されていた。大きな瞳がこちらを見つめている。陸上部に入っているためか少々小麦色の肌で、今は椅子に座っているため気づかないが、背はクラスで並ぶと後ろから数えた方が早いくらい高かった。
 真依の身長はちょうど真ん中くらいでどっちつかず。家にこもりがちなため色白で、それに加えて切れ長の一重ということを気にしており、自分の容姿には全く自信がなかった。そのため未来の容姿を非常にうらやましく思っていたのだった。
「本、読み終わったんだね」
 目が合った未来が立ち上がり、真依の席までやってくる。ちょうど窓側に立ったため、その場所だけ光を遮って暗くなった。
「うん。ちょうど間に合ったよ。放課後に返すのにぴったりだね」
 真依は椅子に座ったまま未来を見上げて答える。いつも学校では暇があると本を読んでおり、そのため図書室ではすっかり常連になっていた。
「また借りるの?」
「そうだよ。本読むの好きだもん……きゃあ!」
 未来からの質問に答えていた真依が悲鳴を上げる。真依は肩くらいまで伸ばした髪をいつも2本に分けて結んでいるのだが、その髪を未来に急に引っ張られたからだった。
「それにしては、あまり面白そうな様子には見えないけど?」
 髪の毛から手を離しつつ未来が言う。真依はそれを聞いて思わず止まってしまった。
 真依は最近になって、本を読んでいても心動かされることが少なくなってきていると感じていた。面白いと思う本であれば待ちきれずにどんどんページをめくっていくだろうし、もっと早く読み終わるはず。本の厚さとそれを読むためにかかる時間をだいたい把握しているため、今回の本を読む様子にかなり違和感があると自分で気付いていたのだった。
「すごいね未来」
 真依は未来の観察力に感嘆の声を上げつつ先程まで読んでいた本をバッグの中から出した。
「この本、純粋に面白いとは思うんだけど、心に響くものがないんだよなぁ」
 未来はその本を手に取りぱらぱらとめくってみる。小学生向けに作られている本のため文字も大きいし読みやすそうだ。だが、未来は本を読むとすぐに眠くなってしまう体質らしく、詳しい話まではできない。
「ふうん。まぁ私は本を全然読まないからわかんないけど。……それって面白いよって薦められた本なんでしょ?」
 未来は本を机の上に乗せた。真依はそれを目で追う。
「うん。何を借りようかなって悩んでたら図書委員さんに『これいいよ』って言われたの。でもね……」
 真依は再び本を手に取り、最後の辺りのページをめくって未来に見せた。
「ここにね『いつかあなたにも魔法のような素敵な出来事があるかもしれません』って書いてあるんだよね。それがこんなこと起こるはずないじゃんとかつい冷静に考えちゃって」
 未来は真依が開いている本のページをさらりと読んだ。
「夢がないねぇ」
「最近だめなの。前まですごく面白いって思ってたのに。そういった感覚がなくなっちゃったのかなぁ」
 真依が本を閉じ、その表紙をじっと見つめながら言う。もう一度ため息をつこうとした時、ショートホームルームが始まるチャイムが響いた。


−1−


 授業を終えて自分の部屋に戻ってきた真依は留守番電話のランプが点滅していることに気づき再生ボタンを押した。
『母さんだけど。今日はアルバイトない日だったよね。帰ってきたら電話しなさい』
 真依は今一人暮らし中である。
 中学までは実家に住んでいたのだが、真依自身の希望で現在は実家から電車で6時間ほどの距離にある街の高校に通っている。仕送りはごくわずかしかしないという約束のため、足りない部分は毎週火、木、土、日曜日に行っているアルバイトで補っていた。
 だいたい2日に1日は拘束されるということで大変な生活だが、時間と生活費をやりくりすることでなんとか成り立たせている。この生活ももう3年生になった真依には慣れっこだった。
 今日は水曜日のためバイトがなく、早い時間に部屋に帰ってくることができていた。
「なんだろ」
 母親からは月に一度くらいのペースで電話がかかってきて生活の様子を報告したりしているのだが、その電話はつい先日に来たばかりだった。ということは、何か急に用事ができたということなのだろう。
 真依は着ていたセーラー服から動きやすいパーカーとジーンズという格好に着替え、早速実家に電話をしてみることにした。
『あ、真依。今帰ってきたんだね』
 電話に出た母親はいつもの様子とは違っているようだった。なんだかわざとらしく明るい。
「それで、何の用?」
 嫌な予感を感じつつも用件を急かす真依。
『あ、うん。……実はね。真依が住んでいる街に親戚が住んでいるのは知ってるよね』
 真依はすぐにその親戚たちの顔を思い出すことができた。そもそも真依がこの街の高校を選んだのは何かあった時に親戚を頼ることができるかもしれないと考えたこともあったのだ。
「うん。叔父さんと叔母さんがいるね」
『そうしたら、その2人に柚月(ゆつき)ちゃんっていう娘がいることも知ってるよね』
 真依はそれを聞いて電話を持ったまま視線を軽く上向きにして少し考えた。
「……あぁわかった。いたいた。確か今年10歳だっけ」
『そうそう。それでお願いなんだけど、3日でいいから柚月ちゃんを真依の部屋で預かってくれない?』
 しばらく真依は始め母親が何を言ったのかわからずぼうっとしていたのだが。
「えー!!」
 突然叫び出す。その声が思ったより大きかったため、母親が小さく声を上げて耳を塞ぐ様子が電話口から伝わってきた。
「母さん、私が子供苦手なの知ってるでしょう?」
 真依は子供と接する経験がほとんどなかったためにどうしていいかわからず、苦手意識だけ妙に多く持っていた。そのため親戚が一同に集まった時なども小学生以下の子供たちがいる場所にはなるべく近づかないようにしていたのだ。
『大丈夫。柚月ちゃん小学5年生だけどしっかりしてるから。手を煩わせるようなことはしないって』
 懸命に説得しようとする声を聞いて、真依はもう既に母親は了承の返事をしてしまっているのだと気付いた。母親はいつもそういう節があり、過去に知らないところで重要なことを勝手に決められていたことが何度もあったのだった。
「そもそも、どうして私が柚月ちゃんを預かることになったのさ」
 真依は半分諦めも感じながら最後の抵抗を試みる。
『悟(さとる)さんが単身赴任してるってことは知ってるでしょう。昨日仕事中に倒れたっていう連絡が来て、祐美(ゆみ)が様子を見に行くことになってね』
「え!! それで叔父さんは大丈夫なの?」
 真依は母親の妹である祐美は個人的にあまり好きではなかったが、悟のことは小さな頃から可愛がってもらっていたため一大事と感じる。
『うん。とりあえず命に別状はないみたいだよ。私も詳しいことは知らないけど』
 母親からの報告を聞いてほっと胸をなで下ろす真依。
「でも、それならどうして柚月ちゃんを連れて行かないの? 柚月ちゃんも心配だろうし一緒に行った方がいいと思うんだけど」
 真依の素朴な疑問に母親は大きく頷いているらしい。
『私もそう思ったんだけど、真依も祐美の性格は知っているでしょう。柚月ちゃんに学校と塾を休んでもらいたくないんだってさ』
「あーなるほどねー」
 冷めた声で答える真依。祐美は親戚の間でも有名なくらい教育熱心だった。そのためにあまり好きではないのだと思っている。
「柚月ちゃんはなんて言ってるか知ってる?」
 真依はもう一つの懸念を口にする。いくら母親たちがなんと言おうとも、本人が父親の所に行きたいというのであればそうするべきだと考えたからだった。
『柚月ちゃんは、真依の家に行ってもいいって言ってるよ』
「そうなの?」
 真依は意外というような口調で返す。実際そうなったのが真依だったら自分は絶対に何があってもついて行くだろうと思ったからだった。
『お父さんはいつもそばにいてくれているから大丈夫なんだって。そう言っていたらしいよ』
 真依にはその自信がどこから来ているものなのか全くわからなかった。
「……今更バイトは休めないからね」
 念を押す真依。もちろんそんな理由で柚月を預かることを回避できるわけはなかったが。
『きちんと面倒を見てくれればそれでいいよ。お願い! 来月の仕送り弾むから』
「本当?」
 仕送りという言葉に思わず反応してしまう。学費は奨学金、そして家賃と光熱費で出費がかさんでしまう状態で現在の仕送りでは確実に生活が苦しかった。もちろんやりくりすれば黒字も出るのだろうが、贅沢は全くできない状態なのだった。
『本当本当。柚月ちゃんの食費とかも出ると思うから、今回だけは多くするよ』
 自ら望んだことながら節約ばかりの生活をしてきた真依にとって、その言葉は非常に魅力的だった。来月は少しは余裕のある生活が送れるのだったら、3日間くらい平気で我慢できるだろう。
 真依は母親のペースにのまれながらも粘ってよかったと思った。
「……わかった」
『やった。真依ならそう言ってくれると思ってたんだよね。明日の午後4時くらいに柚月ちゃん連れて祐美が行くと思うから。よろしくね』
 怪しいくらいテンションが高くなった母親の声を聞いて、もうそんなところまで話を進めていたのかと思わず呆れてしまった。まぁいつも真依は母親には勝てなかったためそれも仕方がないのかもしれない。
「明日ね……。わかったよ」


−2−


 母親から電話があった次の日。木曜日のため真依のバイトがある日でもある。
「あれ。今日はバイト休み?」
 真依は時間を有効に使うため、必要な道具を登校時に持参し、終わったらまっすぐバイト先に向かっていた。いつもより少ない荷物で登校した真依に気づき、未来が声をかけてくる。
「あぁ。実はね、今日から親戚の子を預かることになったんだ。4時から来ることになってるから一度部屋に戻らないといけないんだよ」
「えー。すごい。私子供嫌いだから尊敬するよ」
 顔をしかめながら未来が言う。真依も子供は苦手だが、嫌いではなかった。どう接したらいいのかわからないだけのため、遠くで見ている分では可愛いと思える。
「仕送り増額に負けちゃった」
 苦笑しながら真依が答える。それを聞いて未来は妙に納得をしたようだった。
「そっか。そうだよね。……何歳の子?」
「10歳。小学5年生」
 それを聞いて未来は少し考えているようだった。
「それならたぶん大丈夫だね。けっこうおとなしくしてると思うし。これが幼稚園児とかだったら泣くよー」
 うんうんと首を縦に何度も振る真依。今回引き受けたのはその柚月の年齢も考えてのことだった。
「今日もバイトあるけど、まぁなんとかなるかなって思うし」
「そうだよね。喫茶店だから席に座ってごはんとか食べててもらえれば」
 真依は未来と話をしながらバッグから勉強道具を出して机の中に入れていた。ようやく全て入れ終わり、ロッカーに空のバッグを入れに行く。
「昨日店長にも電話でお願いしたし、まぁなんとかなるよね」
 不安がないわけではないが、それを意識から追いやって真依は振り返り未来に微笑みかけていた。


 授業が終わった後すぐに部屋に戻り、昨日できなかった掃除をしている間に時計はまもなく4時になろうとしていた。
 柚月に最後に会ったのはいつだっただろうか。おそらく親戚が集まったお正月時期以降は会っていないと思う。いくら同じ街に住んでいるとはいえそんなに親戚同士で親交が深いというわけではなかった。更に今まで真依は柚月を避けるようにしていたため、実際今日久し振りに会うということで緊張をしていたりする。
 掃除の仕上げをしながらも真依は時計を何度も見つつ落ち着かない気持ちでいたのだった。
 きりのいいところで掃除を終わらせ後片付けをしている時に来訪者を知らせるチャイムが鳴った。
 とうとう来たかと思いつつドアを開けると、年齢より幾分も若く見える祐美と、その後ろにいる小さな女の子が目に入る。
 色素が薄いのか、光に当たると茶色く見える髪の毛は腰ほどまで伸ばしていて、顔を動かすたびに毛先がさらさらと揺れてきれいだった。
 じっと見るのは初めてだったため気づかなかったが、目も茶色くて二重で大きく、少しふっくらした頬も愛らしくて本当に可愛いと思える子だった。
「間山(まやま)柚月です」
 柚月も真依とはほとんど面識がなかったため緊張しているだろうと思っていたのだが、不思議とそのような様子は全く感じられなかった。ある意味真依よりも度胸があるのかもしれない。
「あ、こんにちは。相内真依です」
 真依もそのまま丁寧語で挨拶を返す。視線を上に戻すと祐美が微笑みながら真依の方を見ていた。
「真依ちゃんごめんなさいね。しばらくの間柚月をよろしくね。そんなに迷惑かけない子だと思うけど」
「はい」
 左手で柚月と手を繋ぎ、右手に旅行バッグを持っている祐美は髪の毛を茶色く染めており、着ている上着などもブランドのもののように感じていた。俗に言う少々派手な女性。顔つきはやはり柚月が似るだけのことはあるというくらいで肌も白くしわもなかった。自分の母親と姉妹ということが信じられないと真依は祐美を見ていつも思っている。
「あ、そうそう。柚月は平日は毎日5時から7時まで学習塾に行っているから、できれば送り迎えだけしてほしいの」
「わかりました」
 さすが教育ママだなぁと思いつつ真依が祐美をまっすぐ見て答えると相手は満足したらしい。
「それじゃお願いね」
 真依に声をかけた後「いい子にしていなさいね」と柚月の頭をなでて言い、単身赴任をしている悟の元へ向かっていった。


 取り残された2人は共に普段話をしない人なのか、少しの間無音の時間が続いた。
「ひとまず、中に入る?」
 真依が目の前の少女にそう言うと、柚月は「お邪魔します」と答え部屋に入ってきた。
 キッチンとバス、トイレとは別になっているもののワンルームの部屋は狭く、ロフトベッドを置いて空間利用しなんとか使用しているという感じだった。
 柚月は持ってきたランドセルとバッグを床に置き、それから座って辺りを軽く眺めた。真依の好きな青色でコーディネートされた部屋だ。
「真依さん、よろしくお願いします」
 小さいながらも凛とした声で真依にかけられた言葉は小学5年生らしくなくしっかりしたものだった。真依は正直面食らって思わず柚月の顔をじっと見てしまう。
「私のことは真依でいいよ。私も柚月って呼ばせてもらうし。それと丁寧語も勘弁ね。私の方がぼろが出そう」
 苦笑をしながら言うと柚月も軽く笑い出した。
 目の前の少女は普段からどのような教育を受けているのだろうか。子供らしい面もあるだろうに、自分よりも更に精神的に大人のような感じがすると真依は思った。


 時計を見るとそろそろ4時半になるという頃だった。
「柚月、行っている塾ってもしかして駅前のかな」
 真依はバイトの時間が近づいてきているためその準備をしながら柚月に話しかけた。確か真依が働いている喫茶店のすぐそばに有名な進学塾があったと思う。
「うん。駅の向かいにある4階建てのビルの中にあるよ」
「それじゃ私のバイト先に近いよ。よかったぁ。そのビルの斜め向かいの小さな喫茶店なんだけどわかる?」
 真依からそう言われて柚月はぴんときたようだった。
「私は9時までバイトだから、塾が終わったら喫茶店まで来てくれる?」


 自転車の後部座席に柚月を乗せ、駅前まで走ること15分。柚月を塾まで送ってからバイト先へ向かった真依を待っていたのは、比較的落ち着いた店内だった。夕方はそんなにお客さんは入らないが、これからの時間が混み合う可能性があるため油断はできない。
「あ、待ってたよ。今日もよろしくね」
 喫茶店の扉を開けるのと同時にカウンターで食器を拭いていた店長、野村舞子(のむらまいこ)が声をかけてくれる。
 年齢はもう既に50歳近いくらいになっていたが、笑うととても可愛らしい印象を受ける。今日は黒い服に真っ白なエプロンをつけていた。
「こんばんは。今日から数日間はちょっとご迷惑をおかけするかもしれません」
 柚月が来るということは前に電話で連絡をしていたが、改めて挨拶をし、着替えるために店の奥に向かう。
 真依はこうして喫茶店で働いていた。一人暮らしをしている時の料理はここで覚えたレシピを利用することが多く、色々な意味でありがたい。店長もとてもいい人でのびのびと働くことができる。更に真依と名前が似ているためか、親近感もあった。
 この喫茶店はカウンター席5、6席の他は4人がけのテーブルが5つあるくらいのこじんまりとした店内だが、味の評判がよく、ごはん時にはいつも多くの常連たちが訪れてきていた。


 徐々に増えてきたお客さんたちの応対をしているうちに、気がつくと既に7時を経過していた。そろそろ来るかなという心構えを持って仕事を続ける。店長も時計を気にしている様子。
 10分くらい経った後、喫茶店のドアベルが軽やかな音を出して来客を知らせた。
「いらっしゃいませー!」
 いつものように元気良く挨拶をしたが、中に入ってきたのは柚月だった。
「あ、柚月だ。舞子さん、柚月来ましたー」
 トレイを持ちコーヒーをお客さんのところへ持って行きつつ店長に親戚の来訪を告げる。すぐに奥のキッチンにいた舞子がフロアへと入ってきた。
「こんばんは、柚月ちゃん。真依ちゃんから話は聞いてるよ」
 膝を折って柚月に話しかける。その後軽く後ろを振り返った。その視線の先には喫茶店のカウンター席があった。
「この一番端の席に座っていてね。あと晩ごはんごちそうするから、メニューを見て食べたいものを選んでね」
 柚月を席に座らせた後にっこりと微笑み、その後またすぐに仕事を再開するためにキッチンへと戻っていった。
 柚月は喫茶店での食事が久し振りのためしばらくメニューを見て悩んでいたようだったが、結局焼肉ピラフにしようと思い立ち、真依を呼び止めて注文をしていた。


 閉店時間の9時まではそこそこ慌ただしい店内となる。真依が忙しそうに働いている様子を傍目で見ながら、ご飯も食べてしまい手持ち無沙汰になった柚月は店内に飾られている絵や小物などを眺めていた。
 ドアのそばにある出窓にはかごに花が生けられていて、壁には誰が書いたかはわからないが絵が飾られている。通常お客さんが座るテーブルの一つ一つにも一輪挿しが置かれていてそれにはハーブの葉のようなものが入っていた。
 照明は少々薄暗いが、このくらいが喫茶店の雰囲気を更に盛り立たせていると感じられた。ここには初めて来たけれどまた来ようと思える雰囲気に満ちている。
 だが、一通り店内を眺めてみても2時間という時間は柚月にとっては少々長いようですっかり退屈になってしまった。
 ふと思い立ち柚月は持っていたバッグから銀色の置物を出し、カウンターに乗せて眺める。
 その置物は猫の形をしていた。四角い箱のようなものの上に尻尾の長い猫が乗っている。喫茶店の照明や内装の飾りがつるつるの身体に写って模様が浮かび上がっているように見えた。
 柚月は頬杖をついてその猫の置物を眺めている。こうして見る場所によって様々な姿に変わる猫を見ていると飽きないらしい。表情も自然と頬がほころんでいるような感じがする。
「あ、可愛らしい猫さんだね」
 ラストオーダーを終えてようやく落ち着いた舞子が銀色の置物に気づく。柚月の頭を軽くなでながら舞子も猫を眺めていた。
「どうしたんですか?」
 真依もその様子に柚月のいるカウンター席まで行き、2人が眺めているものを見る。
「あ、猫だ。可愛い置物だなぁ」
 それを見て微笑んでいる柚月を見て、年齢相応の表情もできるんじゃないと安堵した真依は、もう一度その猫の置物に目を戻した。尻尾の長い猫……。
「……あれ? 私、もしかしたらこの猫さん知ってるかも」
 ぽつりと呟いた台詞に柚月も舞子も真依の方を見る。
「確かね……。あれ、なんだったかなぁ……。私が昔読んだ本に出てきた猫さんに似ているなぁって思ったんだけど……」
 首を軽く傾けしばらく考えていたが、お客さんが真依を呼ぶ声が聞こえて思考の世界から遮断されてしまった。
「はーい」
 レジ打ちをしながらも柚月の持っていた猫が気になった。わかるはずなのに出てこないというのが一番すっきりしないと思いつつ、真依は今日のアルバイトを終えたのだった。


 仕事からの帰り道、柚月をまた後部座席に乗せながら自転車をこいでいた真依は柚月に尋ねてみることにした。
「あの猫の置物はどうやって手に入れたの? 買ったのかなぁ」
 真依の腰にしっかりつかまり、夜になってすっかり冷たくなってしまった風を感じていた柚月が答える。
「これはお父さんからもらったの。遠くにお勤めに行く前に『遠く離れていてもずっと見守ってくれる猫だよ』って言われたんだ」
 なるほどと真依は思う。昔から柚月の父親、悟はそうだったのだ。真依は自分が小さかった時のことを思い出す。
 たまに会う悟はいつも真依のわからないなぞなぞを伝えて帰っていった。次会う時までの宿題だと。会うたびに真依に夢のある探し物をさせてくれていた。
 この柚月が持っている猫の置物も、もしかしたら悟からの問いかけなのかもしれない。真依はそう思った。
 結局柚月自身はこの猫がどういうものなのかはまだ全くわからないらしい。だが、父親のことを話す柚月は普通の可愛らしい子供と全く変わりがなかった。やはり昔真依が感じていたような暖かさを悟から感じ取っているからなのだろう。
 真依は子供が苦手だが、笑顔で父親のことを話す柚月を見て自分も元気になってきたような気がしていた。
 柚月のことは本当に好きになれそうだった。


−3−


「どうだった? その親戚の子は」
 朝柚月を昨日学習塾に送っていった時と同じように小学校まで自転車で乗せて行ったため、遅刻寸前に教室内に入ってきた真依はしばらくの間疲れて机に突っ伏したまま動くことができなかった。
 その状態のまま朝のショートホームルームを終え、もうすぐ1時間目が始まろうとする時間。未来が真依の席のすぐそばまで来ていた。声を聞き顔だけ動かし上を見る。
「すっごく可愛い女の子だったよ。かなりポイント高い」
 ようやく荒い息も落ち着いてきたため体全体を起こす。
「よかったじゃない。真依はさ、ほら一人暮らしなんだから、たまには誰かと一緒に過ごすのもいいと思うんだよね」
 そう言う未来は双子の姉が隣のクラスにいた。真依は兄弟が誰もいなかったからか一人でいることには慣れていたため、こういう話を聞くととても新鮮に思う。
「未来はお姉ちゃんがいてよかったって思う?」
 真依から投げかけられた質問を聞いて、未来は本当に、同性の真依から見ても思わず惹かれてしまうくらいの笑顔を見せた。
「うん。いてよかったって思うよ。私の姉ちゃんは何でもできちゃう人だったから助けてもらったことも多いし。話し相手がいると色々と発散できたりするんだ」
 呆けた顔をして止まってしまっている真依の目の前で軽く手をかざしながら未来が答える。真依ははっとして気づき、もう一度未来の顔に焦点を合わせた。
「たぶん、今の真依がその女の子を可愛いって思うのが、私が姉ちゃんを好きだなって思う気持ちと似たようなものだと思うんだよね」
 そして机の上に乗っている先日とは違う本を眺める。その未来の視線の先を感じ、真依もその本を見る。
「……だから、本の中に理想を求めたりとかしないで、もっと周りに目を向けて欲しいなぁって思ったりするんだけど……」
 ふと未来が小さな声で呟いた。
「……え、何?」
 まだ疲れが抜けていなかったのか、未来が何かを言っていたらしいがほとんど聞き取れなかった。
「あ、いいのいいの。なんでもないから。……そういえば」
 言葉を濁すような未来の様子に真依は気になるものがあったが、その後に未来が話を続けようとしているのを見て尋ねるのをやめた。
「真依、今日までの家庭科の課題、やってきた? スカート作り」
 未来の言葉に真依の顔が途端に青ざめる。
「やってない。……そうだ。家にミシンがないから家庭科室のを借りてやらなくちゃって思ってたんだった……」
「でも、手先器用な真依だったらもうほとんど終わってるんだよね?」
 真依は机の横にかけている紙袋から作りかけのスカートを取り出す。
「あとは最後の仕上げで縫うだけだけど……」
「だったら大丈夫じゃない。今日やって提出すれば」
 未来の言葉にも真依は青ざめた表情を崩さなかった。スカートの布地をじっと見つめてから未来の顔を見る。
「だって、今日も柚月の塾の日だから、小学校まで自転車で迎えに行くって言っちゃったよ」


 今日は金曜日のため真依のバイトはないが、柚月は塾がある。塾は5時から始まるため4時半くらいに出発すれば間に合うが、柚月を迎えに行く関係から4時までには絶対に課題のスカートを完成させなければならなかった。
 放課後、ホームルームが終わった後すぐに家庭科室へ駆け込む真依を見送って、未来は掃除当番のため黒板の雑巾がけにかかっていた。
 掃除が終わった後真依の様子が気になった未来は家庭科室に行こうと思い教室を出ようとしたが、なんだか廊下がやけに騒がしいと思い、辺りを見渡してみる。
「あれー?」
 廊下にいる女子たちの「可愛いー」という声をよそに、一人の女の子がランドセルを背負って歩いてくるのが見えた。
 ここは高校だ。どう考えてもありえない光景だと思ったが、何度見てみてもやはり小さな女の子だった。腰ほどまで伸びた髪の毛が可愛らしい少女によく似合っている。
 しばらく呆けた顔でその少女を見ていた未来だが、ふと思い立つことがあってバッグを教室に置き少女のところへ近づいた。女の子はそれぞれの教室の〜年〜組と書かれているプレートを見ながら歩いている。
「ねえ。もしかして、真依の親戚ちゃん?」
 その声に反応した少女、柚月は声のする方を見て未来を発見し走ってきた。
「真依を知ってる人ですか?」


「柚月っていうんだ。いやほんと、真依が言ってた通り可愛い子だわ」
 教室の真依の席に柚月が座り、その隣の席に未来も座った。
「真依は今、家庭科の課題をやってるんだよ。今日までに提出しなくちゃいけないやつだから焦ってるんだろうなぁ」
 こくりと首を前後に1回だけ倒す柚月。
「学校が終わったらすぐ迎えに行くから校門で待っててって言われたのに全然来ないから、近いし来ちゃいました」
 未来は柚月の髪をなでる。
「そうだよねー。まぁ、伝える手段がないから仕方ないか。でも、塾の時間には絶対間に合わせるって言ってたからちょっと待ってよっか」
 こくりとまた頷く柚月。そのたびにさらさらの髪の毛が揺れた。
「真依、どう? 優しい?」
「うん。だからとっても居心地がいいです」
 にかぁっと笑う柚月。子供は嫌いだけどこういう子なら妹でもいいなぁと未来は思った。
「家での真依はどんな感じなのかなぁ。やっぱり本読んでばっかりなのかなぁ」
 未来は柚月に尋ねているのだろうが、なんだか自問自答のようにも聞こえた。その様子に気付き柚月は未来の顔を覗き込む。
「あ、うーん。……真依って、見ていても時々何を考えてるかわかんない時があってね。あんまり人に気を許したりしてないみたいなんだ」
 未来の様子ははつらつとした感じがなく少し弱いように見えるかもしれない。柚月は未来をじっと見続けている。
「あんまり自分のことを話したりしないし、中学の時のこととかも、聞いてもいつも黙ってばかりで。……それでも私のことを信用してくれてるのはわかるんだけどね。話してくれることもあるし」
 柚月は未来からの言葉に初耳とばかりに身を乗り出して聞いている。
「私、全然気がついてなかった。真依はいつもにこにこしている人なんだと思ってました」
「もしかしたらなんだけどさ……真依って中学の時に何かあったのかなぁ」
 うーんと考え込む未来。一緒に柚月も腕を組み考える。
 わざわざアルバイトをしてまでこの街の高校に通う意味は、あるのだろうか。
 一応ここは進学コースもあるそこそこのレベルの学校だ。だが真依は未来と同様普通コース。このくらいのレベルなら真依の実家のある街にも同じような高校はあるだろう。
「わかんないですね」
 柚月の言葉に肩を落とす未来。
「そっかぁ……。やっぱりだめかー」
 未来は背中を反らして天上を見上げる。でもすぐにそれを元に戻した。柚月は席から立って窓側に寄り外を眺めている。
「もし、真依が何か悩みとか言ってきたら、聞いてあげてくれないかなぁ。もちろん私もそうするけど、家にいる時の方がリラックスできてるんじゃないかって思って」
 今日は天気が良く、空も徐々に青色から茜色に変化しつつある。教室の時計を見てみるとそろそろ4時を過ぎる頃だった。
「うん」
 柚月は軽くではあるが頷いた。それを見てふぅと未来は軽く息をつく。
「そろそろ終わる頃かねぇ。柚月、真依のいる家庭科室に行ってみよっか」
 席を立ち柚月を呼ぶ未来の声を聞き、柚月も踵を返して教室の外へと向かった。


 家庭科室でミシンに向かって作業をしていた真依は柚月が教室に入ってくるのを見て本当に驚いていたようだった。それから柚月に何度も謝りつつ作業を進め、ようやく職員室で先生に提出した時にはもう時間は4時半を過ぎていた。校門で未来と別れた真依は柚月を自転車に乗せあわてて自転車をこぐ。
 高校を出て少し走るとしばらく続く上り坂があった。やはり途中で体力が持たなくなり自転車から降りて歩きながら押す方向に変更する。柚月は後部座席に座ったままだ。
 こうしていると2人の視界がちょうど同じくらいになる。時々顔を同じ高さで見合わせながら色々な話をした。叔父や叔母のことを聞いたり、または一人暮らしの苦労などを話したり。
 柚月と話をしていると疲れも忘れてしまうくらい楽しく、坂を上りきってから再び自転車に乗っても、それも気合を入れてこいでしまうくらい元気をもらっていると真依は感じていた。
 時間は4時50分を回っていた。そろそろ本気を出してこがなければと真依が思った時。
「わぁ。きれい!」
 後部座席から感嘆の声が聞こえ、その声の主である柚月が指差した先を見てみる。そこには鮮やかなオレンジ色の夕日がまもなく地平線に沈もうとしていた。
 茜色の空に包まれ、全てが紅く染まっていく。道路も、辺りに建ち並んでいる建物達も、そして真依と柚月も。
 今日も一日天気が良かったが、この様子を見ると明日も晴れるだろうと思う。
 都会の無機質な街並みも、この一瞬だけは不思議と温かみを感じるようになる。晴れた日にはどこでも見られるものだが、真依は今まで見た中で一番きれいな夕日だと思った。
 いつまでも眺めていたいと思うが夕方はあっという間で、この光景もすぐに暗く暗転していく。
 鮮やかなオレンジ色に見惚れるあまり自転車をこぐ足が止まってしまっていたが、もうすぐ塾の始まる時間ということであわてて再び自転車をこぎ始める。
 途中で信号待ちをしながらまた西の方向を眺める。夕日はまだ地平線に隠れてはいない。
 沈む直前の太陽は、直接見ても眩しくはない。そして、真昼の高い位置にあるものよりも幾分か大きく見えていた。


「ねぇ真依。何読んでるの」
 柚月の塾も、その後の晩ごはんも全て終わり、寝るまでの間少々時間があるため真依は勉強机に座って本を読んでいた。
「あ、私はね、こういった冒険ものっていうか、魔法使い関係っていうか、けっこう子供向けの本が好きなんだ」
 真依の部屋は狭いが家具が少なく少々寂しい印象を受ける。本当に必要最低限のものしか置かれていないといった感じだ。それの最も顕著なものとして、真依の部屋には机の上にブックエンドで挟まれた教科書以外は本が全くなかった。そのため本棚もない。
 真依はいつも暇さえあれば本を読んでいるが、それは全て学校または近くの公共図書館、または友達から借りてきているものだった。
「柚月は普段どんな本を読んだりするのかな」
 真依が尋ねると柚月は軽く笑い出した。
「普通逆だよね。私はお母さんから小説とかじゃなくて歴史の本とか、パソコンの本とかを読みなさいって言われてるよ」
 小説では勉強にならないと言いたいのだろうか。真依は柚月の母親、祐美の偏った教育に苦笑いを隠しきれなかった。
「そしたら、こういう本って読んだことないの?」
「読んだことはあるよ。お父さんがよく買ってきてくれたもん。でもすぐにどこかにいっちゃって、どんな内容の本だったかとかはよく覚えてないんだ」
 首を左右に可愛らしく倒しながら柚月が答える。
「え、もったいない。こういう本も最近は私の年齢ではちょっと無理が出てきたけど、今の柚月くらいの年齢だったら一番面白いって思う頃だと思うんだけどな。今からでも読んでみなよ」
 そう言われて柚月は机の上に積み重なっている本を何冊か手に取ってぺらぺらとめくってみたり、冒頭部分を軽く読んでみたりした。
「確かに面白いかもね」
「うん。でも私は最近本を読んでもあんまり感動しなくなっちゃったけど……」
 真依が柚月に聞こえないようにこっそりと呟く。柚月にはその声が聞こえてはいたが黙っていることにした。
「私は明日もまたバイトがあるんだけど、5時から9時までだから午前中とかは暇なの。その時間図書館に行こうかと思ってたんだけど、柚月も行かない?」
 最近本といえば母親が買ってきてくれるものしか読んでいないと思った柚月は、たまには自分で面白そうな本を選ぶのもいいかもしれないと思ったらしい。
「……行く」


 柚月は先程まで寝ていた身体を起こした。
 既に日付が変わる時間になっていたが、真依はまだ本を読み続けているようだったため先に寝ていた。しかし部屋の中が明るくて目が覚めてしまったようだった。
 時計を見てみると3時をさしている。これから寝てもまだまだゆっくりできそうだと思った。
 柚月が泊まっている期間中は柚月がロフトベッドを使用し、真依は床で布団を敷いて寝ていた。ロフトベッドの上から下を見てみると、真依もすやすやと寝息を立てているようだ。
 布団のすぐそばにも本が置かれていたり、電気がつけっぱなしだったことから、寝る寸前まで読み続けていたのだろうと思う。電気を消してもう一度寝ようとコードに手を伸ばしかけた時、真依の寝相に少々の違和感を感じてベッドのはしごを降りてみた。
 真依の寝相は決して悪くない。反対に微動だにせず、寝息が聞こえてこなければ心配になってしまうほどだ。だが、布団のスペースがかなり広いにもかかわらず隅で丸まって眠っていた。
 布団を軽くめくってみると、その下に毛布が乗せられていたが、その隅の部分だけ妙にぼろぼろになっていた。
 それは、今もそうだが、真依が毛布の隅をぎゅっと握り締めて寝ているから。その握りこぶしは非常に硬く、少々の力を加えてもおそらく離れないだろう。その寝方は柚月に胎児を想像させた。
 読む本が全て児童書だったり、普段はいつも笑っており元気に振舞っているつもりでも寝ている時は弱々しく見えていたり。
 柚月は真依の違う一面を垣間見たような気がしていた。それと同時に、今日高校で未来に言われたことを思い出していた。


−4−


 昨日見た夕日の効果か青空が空いっぱいに広がった朝。
 カーテンの隙間から明るい光が入ってきているのを感じて目を覚ました真依は、まだ寝ている柚月を起こさないように静かに起き朝食の準備をしていた。
 その後20分ほどで目が覚めた柚月を待っていたのは明るい朝の光と真依の笑顔。それは昨日の寝相からは全く想像がつかなかった。
「今日だよね。柚月のお母さんが迎えに来るのって」
 朝食を食べながら真依が柚月に尋ねる。
「うん。予定は今日だね。3日目だし。でも何時に来るとか全然連絡ないよね」
 真依はおそらく今日帰ってくるのであれば迎えは夕方頃だと思っていた。連絡がないのであれば柚月が3日前に来た時間、4時頃に迎えに来るのかもしれない。図書館へは行っても特に影響はないだろうと考える。
 布製の大きなバッグの中に借りた本を大量に詰め込んで、前部分にある荷物かごの中に入れる。そして柚月をまた後部座席に乗せていつも真依が通っている公共図書館へ向かった。
「こんにちは」
 眼鏡をかけた優しそうなお姉さんがカウンターに座っていた。背中の中ほどまで伸びた髪の毛を1本に結んでまとめている。
「こんにちはー」
 真依はバッグから本を取り出して返却の手続きをする。その間に柚月は辺りをきょろきょろと眺めていた。
 真依にとっては見慣れている場所でも、柚月にとってはしばらく来ていない間に改装が行われていたらしく本の配置が変わっていて、目的の本を探すためには少々時間がかかるかもしれなかった。
「図書館が珍しいのかな? こんにちは」
 お姉さんは20代前半くらい。温かな雰囲気を感じる人だった。胸につけられているバッジには「森田千波(もりたちなみ)」と書かれている。
「こんにちは」
 柚月も挨拶を返す。そうしている間に返却手続きが終わったようだった。
「柚月、行くよ」
 そう言って真依がまっすぐ向かった先は、1階のカウンター裏手にある児童書コーナーだった。
「他の種類の本は読まないの?」
 あまりにも児童書ばかりを借り続けているため、不自然に思った柚月からそう尋ねられる。新着図書の棚をチェックしていた真依は柚月の方を振り返った。
「そうだね……。必要のある時くらいにしか読まないかな。私にとってはまだまだここの本で充分だよ」
「でも……。昨日、本を読んでもあまり感動しなくなったって言ってたじゃない」
 本探しに夢中になっている真依には聞こえなかったようだったが、柚月は昨夜の真依の台詞を思い出して呟いた。
 真依の様子に少々訝しげな思いを感じつつも、柚月も自分の読む本を探すことにしたのだった。


 児童書の棚の他に図書館探検も兼ねて全てのフロアを回った柚月の手には3冊ほどの本があった。そのジャンルは様々で、歴史、鉱物、経済。
 一通り見て満足した柚月は真依が本を選び終わるまで早速読んでみようと思い立ち、児童書のあるフロアに戻ってきた。
 児童書の閲覧室ということで動物の絵が描かれていたりするテーブルや椅子が並んでいるが、窓側の席に落ち着いた。
 辺りを見渡してみると、真依は本の入っている棚を何度も行ったり来たりしながら目的の本を探しているようだ。ここまで通いつめて読み続けているのであればこの図書館にある児童書は全て読みつくしてしまったかもしれない。
 目線を元に戻し、持ってきた3冊の本のうちどれから読み始めたらいいか悩む。少し考えた末、鉱物の本にしようかと思った時。
 ふと、柚月が初めて真依と会った日のことを思い出していた。


「……あれ? 私、もしかしたらこの猫さん知ってるかも」
「確かね……。あれ、なんだったかなぁ……。私が昔読んだ本に出てきた猫さんに似ているなぁって思ったんだけど……」


 真依のその台詞が頭の中に響き、柚月はバッグから銀色の猫の置物を出してテーブルの上に乗せた。テーブルが赤や黄色、青といった原色が散りばめられている色のため、その上に乗っている猫もすぐにカラフルな毛皮に変わっていく。
 尻尾が長く、くるりと丸く曲がり背中に触れている。柚月は銀色の猫をいつもとは違い真剣なまなざしでずっと見続けていた。
「……あら?」
 頭の上で声が聞こえ、柚月は首を後ろに傾けた。
 先程カウンターにいた千波が柚月のすぐ後ろに立っており、テーブルの上の猫を見ていた。
「この猫ちゃん、フィアちゃんね。この置物、他にも持っている人がいたなんて」
 千波は先程真依が返却した本を棚に戻そうと児童書の棚まで来たのだが、真剣な顔をして一点を見つめている柚月が気になり近づいてきたのだった。
「千波さん、この猫のこと知ってるんですか?」
 突然柚月に名前を呼ばれて少々面食らった様子だったが、すぐに名札を見たのだとわかって微笑んだ。
「えぇ。よくわかるわよ。だって、私もこの置物持っているから。……フィアちゃん、知らない?」
 柚月は自分と同じ置物を持っている人がこんなところにいるとは思いもよらず驚き、猫の置物と千波を交互に見てしまった。
「お父さんからもらったんですが、どういうものなのか全然教えてくれなかったんです」
 柚月の話を聞いて、千波は目の前にいる少女の頭を軽くなでて微笑んだ。
「きっと、お父さんはこのお話をあなたに読んでもらいたかったんだと思うわ。そして、できればそれを自分で探して欲しいって」
 そう言って両手に抱えていた数冊の本を柚月の座っているテーブルの横に置き、本が置かれている棚の方へ向かった。そして数秒後に戻ってきた千波の手には1冊の本があった。
「これは『魔法使いの猫』というお話なの。……是非読んでもらいたいわ。良ければ借りて行ってね」
 そう言って手渡してくれた本はそんなに分厚いものではなくすぐに読み終わりそうではあったが、気になったのは棚に並んでいる他の本よりも痛みが激しく、その都度透明なテープなどで修繕した跡が多いことだった。
「そんなにたくさん売れた本ではないんだけど、私たち司書の中ではけっこう有名なの。私もこの本大好きよ」
 そして柚月の顔のそばに近づいてきて耳元でささやいた。
「これはね、魔法みたいな出来事は現実の世界でも本当にあるんだよって子供たちに伝えてあげたい時に薦めている本なのよ」
 立ち上がりテーブルの上に乗せていた本を再び両手に抱え、本の整理に戻っていった千波の後ろ姿を呆けた顔をしてしばらく見つめていたが、渡された本の表紙に目を戻した。
 表紙には優しそうな顔をした黒い服の魔女のおばあさんと、柚月の持っている銀色の猫とそっくりの、尻尾の長い白い猫の絵が描かれていた。
 その後しばらくして柚月のいるテーブルに5冊ほどの本を抱えた真依が戻ってきた。そして真依と一緒に貸出手続きをしていた柚月の手には4冊の本があった。


 図書館に思ったよりも長くいすぎてしまったため、いつもよりも2時間ほど遅い昼食をとった後はすぐにアルバイトの時間になってしまった。留守番電話に祐美から帰るのが明日の夜に延びるというメッセージが入っていたため、またバイト先の喫茶店に一緒に行く準備をしていた柚月は、銀色の猫の置物と借りてきた本とを交互に見つめ、そして大事そうにバッグにしまった。
 そして真依のアルバイト中にまたもやカウンタ席の端に座ってオレンジジュースを飲みながらその本を読み始めたのだった。


「魔法使いの猫」


 人間が住んでいる村から少し離れた山の中に1人の魔法使い、ローグが住んでいました。ローグは今までずっと1人でほぼ自給自足の生活をしていたのですが、ある日山の中に迷い込んできた1匹の毛色のきれいな白い猫を飼い始めました。
 その猫を、ローグはフィアと名づけました。言葉を話せる魔法をかけてもらい、1人と1匹で仲良く暮らしていました。

 ところが、ある日ローグが病気のため床に臥してしまいました。もう300年以上生き続けている魔女です。そろそろ寿命がきてしまったのかもしれません。こればっかりは魔法でもどうすることもできません。
 フィアはローグの病気を治す方法が絶対にあるはずだと薬を買いに人間の住む村に行こうとします。ローグが止めようとしたのですが、聞かずに家を飛び出してしまいます。

 ですが、今まで山を出たことが一度もないフィアが1匹で簡単に目的地に着けるかといえばもちろんそうではありませんでした。山で迷ってしまったフィアは色々な動物たちや植物たちに助けられながらなんとか村まで辿り着きます。温和な人柄のローグのことを、山のみんなは本当に大好きだったのです。

 無事に村に着いたフィアですが、ここからが難関でした。人間の言葉を話す猫のことを人間は皆気味悪がって何も話を聞いてくれません。
 山に魔法使いがいるということはおとぎ話として伝わっていましたが、本当に住んでいるとは知らなかったのです。自分たちと違う人種の人を助けることを人間は拒みます。フィアに薬を分けてくれるような大人は誰一人いませんでした。

 ですが、たった1人だけフィアの話に耳を傾けてくれた人がいました。それは12歳の女の子、エルマでした。両親からきつく止められていたためその場では何もできなかったけれど、夜になって抜け出して来てくれたのです。家には風邪薬しかなかったのですが、それを持ってきてくれました。

 お礼を言って立ち去ろうとするフィアにエルマは「手当てをしないといけないわ。あなたでは難しいでしょう」ということでローグの家までついてくると言います。
 実はエルマは以前から山に住んでいる魔法使いに興味がありました。実際に言葉を話す猫を見るまではまだ村を抜け出そうという行動は起こそうとしていなかったですが、フィアを見て魔法使いに会いたいと思い、いてもたってもいられなくなったのです。

 何日かかけてローグの家まで向かうその途中、エルマはフィアからローグに関しての色々なお話を聞きます。そうしている間にフィアともとても仲良くなりました。
 そしてローグの家まで着いたエルマは確かに、本物の魔法使いを見ることができました。ただ、着いた時にはもう既に手遅れだったのです。

 それでもローグは最後の瞬間にフィアと一緒にいられたこと、そしてローグを尋ねて人間の女の子が遊びに来てくれたことにとても喜びました。
 ローグにとっての最後の懸念、それはフィアが1匹だけ遺されてしまうということでした。ローグはエルマにフィアと一緒にいてくれないかとお願いします。数日の間にフィアのことをすっかり大好きになっていたエルマはすぐ了承します。

 ローグは最後に1つの魔法をかけ、そしてフィアとエルマが見守る中天国へ旅立っていきます。
 その魔法とは「フィアにエルマがずっと笑っていられるように、幸せでいられるように見守っていく力を与える」というものでした。
 エルマはフィアと村へ戻り、一緒に生活をするようになります。フィアはもう人間の言葉を話さなくなりましたが、エルマの元を片時も離れず、その命を全うするまでずっとエルマを守り続けたということです。


 読み終わった柚月はどうして父親がこれをくれたのかという真意をようやく理解できたような気がしていた。
 この銀色の猫、フィアはお守りなのだ。そばにいられない代わりに柚月を守ってくれるようにお願いをして。
 それと同時に、勉強に重点を置く柚月の母親、祐美の教育方針にも心配をして、夢を忘れないような、今でも魔法はみんなが使えるものだと思えるような子供に育って欲しいという思いもあったのかもしれない。
 柚月の父親、悟は見た目はひげの濃いおじさんというイメージがあるのだが、いつまでも子供心を忘れない人で、いつも柚月をいい意味で驚かせてくれる。そんな父親を柚月は本当に大好きだった。
 なんだかとっても大きな宝物を見つけることができたような気がしていた。
 そして喫茶店内でまた忙しく働いている真依の様子を眺めながら、柚月は1つの計画を立てる。
 その視界の隅には、銀色の猫フィアが長い尻尾を丸めながら立っている姿が映っていたのだった。


−5−


 日曜日。今日の夜には柚月の母親である祐美が帰ってくるため、真依の家に柚月がいる最終日となる。
 真依は今日もバイトがあるが、時間はいつもと同じく5時から9時にしてもらっているため今日は掃除や洗濯などの家事に終始しようかと思い、朝から気合いを入れて掃除機の電源を入れていた。
 ちなみに柚月は朝食を食べ終わってからどこかに出かけていていなかった。どこに出かけるのかと聞くと「私もよくわからない」と言っていたため少し心配になっていたが、掃除をするということを聞いていたため気を遣ってくれたのかもしれないと思う。
 昼食までには戻ると言っていたため、それまでに全て終わらせようとてきぱきと家事をこなす。
 今日の天気は曇りで、数日前までは天気が良かったため洗濯をする時期を間違ったかなと窓から外を眺めながら考えた。もちろん狭いアパートなので外で洗濯物を干すことはできないが、部屋で干すにしても天気と風通しのいい日が最高だった。
 それでも部屋の中は雑巾がけまでしてぴかぴかになった上に洗濯物も全て物干しにかけてすっきりし、真依はようやく満足することができた。机の椅子にどっかりを腰を落ち着け、上を見上げて軽く目をつぶる。
 今のこうした暮らしは貧乏だということを除けばとても楽しいものだった。おそらく高校も実家から近い学校を選んで通っていたりしたらこのような気持ちは味わえなかったと思う。
 人付き合いの下手な真依には友達が少なかったが、親友は数より質だということを過去の経験から存分に思い知っていた。今の友達は本当に真依のことをよく考えてくれる。その上に真依の気にしている容姿のことなどについてからかうような後先を考えない人も今通っている高校にはほとんどいなかった。
 真依は、中学の時にいじめられており、それから逃げるようにして今の高校へ進んできたのだった。
 時々、今の楽しい生活がいつまで続くのかと不安になる。気がついたら終わってしまっているのではないかと。今が楽しければ楽しいほどその不安な思いは影となって真依の後ろにいつも付きまとってきていたのだ。
「怖い……な」
 その思いは特に1人で部屋の中にいる時にこうして襲いかかってきていた。そのため柚月のいた3日間は色々と慌ただしくてそう考える暇がなく怯えることはなかった。
 素直に本の中に広がる魔法の世界に心を落とせず、物語に入り込めずに外側から覚めた目で見るようになってしまっていたが、本当は逃げたかった。つらく苦しい現実から目を逸らしたかった。そのため、今も児童書ばかりをむさぼるように読んでいる。


 掃除も済んで落ち着いたため、昨日図書館から借りてきた本をまた読もうと椅子に座り読みかけの本を探したのだが、ふと真依は自分が借りてきた本以外の本が机に乗っているのを見てそれを手に取った。
 そこには「魔法使いの猫」と書かれていた。表紙に描かれている魔女と白い尻尾の長い猫の絵を見て、真依はようやく喉に引っかかっていた魚の骨が取れたような爽快感を感じた。
「そうだー! あの猫ちゃん、フィアちゃんだ。懐かしいなー」
 ここに本があるということは柚月が借りてきた以外にない。自分で見つけることができたんだと嬉しく思いながら次々とページをめくっていく。
 昔、本当に魔法があるんだと信じていた子供の頃に読んでいた物語は今読んでも懐かしく、読みながら思わず顔がほころんでしまう。
 そして、昔読んで大感動した名作は、大人になって読んでみるとまた以前と違った解釈もできるようになっていた。
「この物語で言っている魔法は、本当の魔法だけではなくて、ただ単純にみんなが笑顔でいられるようにとか、幸せでいられますようにって願うことと全く一緒なのかもしれない。そう考えたら、みんなが魔法を使うことができるのかもしれない……」


 正午を少し過ぎた辺りに柚月が部屋に戻ってきた。その表情は笑顔で、まるでフィアと一緒にいる時のエルマのように思えた。
「柚月ー。どこに行ってたの?」
 真依の質問に柚月は「えへへー」と笑い、バッグの中から手のひらより少し大きいくらいの黒い箱を出した。
「まさか見つかるとは思ってなかったから、すごくびっくりしたんだけど、開けてみて!」
「これ、もしかして……。私にくれるの?」
 両腕をしっかりと伸ばしてにこやかに箱を真依に差し出す柚月。
「そうだよ。泊まらせてくれたお礼と、フィアの名前を見つけるきっかけをくれたお礼」
 箱を受け取り、そっと開けてみる真依。柚月は真依の反応がどんなものなのか早く知りたくてうずうずしている様子だった。
「……わあ!」
 箱の中に入っていたものは、柚月の持っているものと同じ、銀色の猫の置物だった。四角い箱のようなものの上に尻尾の長い猫、フィアが乗っている。
「すごい……。よく見つけたねー」
 真依が気合いを入れて部屋の掃除をしている間、柚月は図書館に行き、同じ置物を持っていた千波にどこで手に入れたのか聞いたのだ。千波は隣町の駅前にある児童書専門店で買ったと言っていたため、すぐに電車に乗ってその場所に行ってきた。
 もしかしたらないかもしれないという諦めもあったが、幸せなことに最後の1つが残っていたのだった。
「柚月、ありがとう。私の方こそお礼をしなくちゃいけないのに」
「いいの。真依が両手両足を伸ばして思いっきり眠れるように、フィアに守ってもらいたいなって思っただけだから」
 真依は柚月の言っていることを全部汲み取ることができずに困惑の表情を表す。
「え、何? 眠れるようにって」
「いいのいいの。真依は気にしないで。ひとまず私とおそろいだし!」
 やはり眠っている時のことは本人にはわからないだろう。いつも赤ちゃんのように丸まって眠っているというようなことは特に言わなくてもいいことだった。
「それにしても、これってけっこう高いんじゃない?」
 柚月と自分のフィアを並べて眺めつつ真依が言う。今日は曇りのため太陽の光が少ないにも関わらず、2匹の銀色の猫はぴかぴかと輝きを発していた。
「大丈夫。一応食費とかもらってたし。きちんと後でお母さんからもらうから」
 真依には見せないようにお財布から出したレシートを裏返しにしてぴらぴらと揺らす。
 その様子がなんだか訳もなくおかしくて、真依は思わず笑い出してしまう。そしてそれを見ていた柚月も自分で気づかないうちに大声を出して笑っていた。


−エピローグ−


「あれ? それって確か前に感動しなかったって言ってた本だよね?」
 月曜日の昼休み。お弁当を食べた後図書室に行っていた真依は、先日借りた本と同じ本を再び借りてきて読んでいた。それに気づいた未来が不思議そうに声をかけてきた。
「そうだよ。この前と同じ本だよ」
 にこやかに、そして軽やかにページをめくる様子を見て、未来は真依が先日とは違うということがわかったが、それがどうしてなのかは全くわからない。
「何かあったの?」
 再び尋ねてきた未来に満面の笑みを向けながら
「こういうのって、考え方を少し変えるだけでストーリーの捉え方が大幅に変わったりするもんなんだね」
 1週間も経たないうちにこんなに急激な変化が起こるものなのか未来はどうにも理解できなかった。ふと頭の中に柚月のことが思い浮かんだが、その影響なのだろうか。
「柚月ー、うまいことやったのかな」
 未来は少し上を見てにやりとする。真依はそんな未来の様子を見て首を傾げた。
「無理に物語の中に入ろうとしなくて、自然でいていいんだなって思えたらなんだかすごく気が楽になったの。それと、魔法は私でも簡単にかけることができるんだって思えたから」
「ふうん。ひとまず良かったじゃない」
 真依は何やら一生懸命説明をしてくれているが、未来にはさっぱりわからなかった。だが、最近どうも真依の気分が沈みかけているなぁと思っていたため、こういった変化は非常に嬉しいものだった。



 魔法というと、つい目の前で急激に変わるもののみに
 目がいってしまいがちだけれど
 わかりやすければわかりやすいほど
 人々の目を釘付けにするけれど

 願い事があって、それを願って、
 けれどそれに対して実現できるように
 努力していく途中段階でも
 それは魔法って言えるんじゃないかな

 小さな思いを少しずつ重ねて
 強くした思いを力に変えていけば
 誰だって魔法は使えるんだ
 みんなが笑顔で、幸せでいられるような魔法が